思春期と矯正治療(後編)

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 親御さんに説得されたかたちでいらした患者さまは、2度目の来院時には一言もしゃべりませんでした。お顔も無表情です。落ち着かぬ気持ちのまま治療が始まりました。

 

 治療がスタートすると、年齢によるものか、技術的な問題なのか、装置の周囲だけじゃなく全体的に磨き残しが目立つことに気づきました。何度もハミガキ指導をするのですが、ご本人のモチベーションは上がりません。磨き残しの染め出しをおこなっても、ブラシの当て方を伝えてみても、ほぼ声を出すことはなく毎回の治療が終わります。幸いにしてカリエスリスク(虫歯の出来やすさ)がそう高くない方でしたので、歯に穴が開くことはありませんでしたが、心配はなくなりませんでした。

 

 治療が進むにつれて、患者さまご本人の協力がないと達成が難しい段階になりました。顎間ゴムというのですが、咬み合わせを治すためにかける矯正専用の輪ゴムです。受け口を治すにも、歯の隙間を閉じるにも、上下の咬み合わせを緊密にするにも必要なその工程ですが、患者さまにはほとんどご協力いただけませんでした。顎間ゴムをかけることを前提に治療をしているために、予定していた治療期間がどんどん延びていきます。それを患者さまにお伝えしても、協力度合いは変わりませんでした。

 

 それでもやっとのことで治療のゴールに到達しましたが、それは私と上司が思い描いていたゴールとは異なる仕上がりでした。もちろん、ご本人に協力をお願いしましたし、親御さんにも声掛けなどをお願いしました。それでもご本人は矯正治療を望んではいなかったのです。私はこの患者さまを担当したことで、「やりたくない」と言っているお子さんには矯正治療をしてはいけないのだなと強く感じました。

 

 以上のことから、思春期で矯正治療を望まない患者さんをお連れの方には、無理に今しなくても良いケースの場合、開始時期をご本人とよく相談されるようにお勧めしています。もしもご自分のお子様の歯並びが気になっていて、それでもお子様自体が矯正治療を望まない場合は、どうして自分がそれを勧めたいのか、そしてお子様はどうして今したくないのかをよくお話しし合ってみてください。今、どうしても優先したいことがあるのかもしれませんよ。せっかく費用も時間もかけるのですから、理想的なゴールに到達したいですよね。